矢口税理士事務所
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家族経営の会社がおちいりやすい「みなし役員」に注意しましょう

実に、日本の会社の9割以上が同族会社と言われています。

同族会社は、簡単にいうと家族で経営している会社です。

そんな家族経営の会社がおちいりやすい「みなし役員」について紹介します。

該当してしまうと、重大な税金リスクを被る可能性があります。

目次

具体例

みなし役員について説明する前に、どんなケースが該当するのか、ごく一般的なケースを挙げて説明します。

 

(前提)

株式会社で業種は雑貨の小売業

社長(父:代表取締役)、従業員(母:事務及び子)、取締役は父のみ

現在、会社株式の保有割合は、父84%、母10%、子6%となっています。

 

 

子は従業員として普通に仕事をしていますが、売上金額の決裁を任されています

それ以外の会社の決め事は、社長である父がすべて行っています。

しかし、将来的には子に会社を継いでもらいたいと考えているので、さらに会社の経営を任せていきたいようです。

また、子は父から毎年、税金がかからない範囲内で会社の株式を贈与してもらっています。

そのため、現在、子の保有割合は6%です。

なお、子の待遇ですが給料は毎月定額の20万円です。

しかし、業績がよい年になると夏と冬にボーナス(賞与)を年2回支給しています。

 

さて、上記のようなケースの家族経営会社がけっこうあるのではないでしょうか。

今回の主人公は子です。

この事例には、みなし役員になってしまうリスクがひそんでいますので、注意しないといけません。

みなし役員に該当したらどうなる?

もし、みなし役員に該当してしますと、どうなるのでしょうか。

簡単にいいますと、税法上は役員と同じ取り扱いがなされます

話が難しくなりますので詳細は割愛しますが、役員の場合、給料は毎月一定でないといけません。

みなし役員になるとは知らずに、従業員のように残業代やら手当を支給して毎月定額でなければ、変動部分がすべて否認されます。

 

さらに、ボーナス(賞与)は一定の手続きを取らないと原則経費として認められません

具体例でいいますと、子がみなし役員に認定されると、夏と冬のボーナスが否認されてしまうということになります。

非常に恐ろしいですね。

みなし役員とは?

法人税法上の役員のこと

みなし役員というのは、法人税法上の役員のことを指します。

いわゆる会社法上の役員の範囲よりも広いです。

家族経営の会社、つまり同族会社特有のお話です。

 

少しオーバーですが、図にしてみると以下のような感じです。

 

 

詳しく知りたい方のために、国税庁のホームページ上の説明を載せておきます。

以下、引用

タックスアンサーNo.5200 役員の範囲
[平成29年4月1日現在法令等]
役員とは次の者をいいます。

  1. 1 法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人
  2. 2 1以外の者で次のいずれかに当たるもの
    1. (1) 法人の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)以外の者で、その法人の経営に従事しているもの
      なお、「使用人以外の者で、その法人の経営に従事しているもの」には、例えば、丸1取締役又は理事となっていない総裁、副総裁、会長、副会長、理事長、副理事長、組合長等、丸2合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員、丸3人格のない社団等の代表者又は管理人、又は丸4法定役員ではないが、法人が定款等において役員として定めている者のほか、丸5相談役、顧問などで、その法人内における地位、職務等からみて他の役員と同様に実質的に法人の経営に従事していると認められるものも含まれます。
    2. (2) 同族会社の使用人(職制上使用人としての地位のみを有する者に限ります。)のうち、次に掲げる全ての要件を満たす者で、その会社の経営に従事しているもの
      1. イ その会社の株主グループ(注1)をその所有割合(注2)の大きいものから順に並べた場合に、その使用人が所有割合50%を超える第一順位の株主グループに属しているか、又は第一順位と第二順位の株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属しているか、あるいは第一順位から第三順位までの株主グループの所有割合を合計したときに初めて50%を超える場合のこれらの株主グループに属していること。
      2. 口 その使用人の属する株主グループの所有割合が10%を超えていること。
      3. ハ その使用人(その配偶者及びこれらの者の所有割合が50%を超える場合における他の会社を含みます。)の所有割合が5%を超えていること。
      1. (注1) 「株主グループ」とは、その会社の一の株主等及びその株主等と親族関係など特殊な関係のある個人や法人をいいます。
      2. (注2) 「所有割合」とは、次に掲げる場合に応じて、それぞれ次に掲げる割合をいいます。
        1. (1) その会社がその株主等の有する株式又は出資の数又は金額による判定により同族会社に該当する場合
          その株主グループの有する株式の数又は出資の金額の合計額がその会社の発行済株式又は出資(その会社が有する自己の株式又は出資を除きます。)の総数又は総額のうちに占める割合
        2. (2) その会社が一定の議決権による判定により同族会社に該当することとなる場合
          その株主グループの有する議決権の数がその会社の議決権の総数(議決権を行使することができない株主等が有するその議決権を除きます。)のうちに占める割合
        3. (3) その会社が社員又は業務執行社員の数による判定により同族会社に該当する場合
          その株主グループに属する社員又は業務執行社員の数がその会社の社員又は業務執行社員の総数のうちに占める割合

(法法2、法令7、71、法基通9-2-1)

国税庁HPより引用
https://www.nta.go.jp/taxanswer/hojin/5200.htm

何だか難しい言い回しですよね。

役員の意味を簡単にまとめると、次のようになります。

①法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人…会社法上の役員

②同族会社の使用人(一定割合の株式を保有)で、経営に従事している(みなし役員)…法人税法上、独特の概念

 

①は大丈夫ですよね。

なぜなら、登記をしているので法務局で謄本を取りさえすれば誰でもわかります。

 

実務上でもっとも問題になるのは、②です。

なぜなら、②とされる役員は、登記がされていないので外からは全く分かりません。まあ分かりにくいです。

これから説明していきますが、事実を一つずつ確認していかないといけないからです。

税務署もこういう事情はよく知っていますので、税務調査では重点的に調べられる項目の一つでしょう。

みなし役員の要件(1)「株式をどのくらい持っている?」

みなし役員に該当する要件の「株式の保有割合」についてです。

もう一度上記に書きました具体例をご覧ください。

子は、同族会社のグループ(要するに家族で50%超)に入っていて、自分でも5%超を保有しているので、要件を満たします

 

「50%超」「10%超」「5%超」をすべて満たしていれば当てはまります。

基本的に家族経営の会社なので、「50%超」や「10%超」は間違いなく満たしているのではないでしょうか。

だとすれば、あとは自分が株式を5%超保有しているかどうかがポイントです。

したがいまして、株式の保有割合はかなり重要なファクターになります。

みなし役員の要件(2)「経営に従事している?」

みなし役員に該当するもう一つの要件「経営に従事している」についてです。

株式の保有割合をすべて満たしていれば、みなし役員になるわけではありません。

上記の具体例でありますが、子は売上金額の決裁を任されています。

このことは、「経営に従事している」ことになります。

したがいまして、子はみなし役員に該当します。

 

なお、「経営に従事している」とは、一般的には、事業計画、設備投資計画、仕入・販売の決裁や資金繰り等の意思決定に関与しているかどうか、ということになります。

経営に従事しているかどうかの見極め

「経営従事」とは、あくまで「事実はどうなの?」という話になりますので、見極めが必要です。

毎度毎度、意思決定の場にいて発言権もあれば完全にアウトでしょう。

取締役会というような正式に経営を話し合う場面かどうかも関係ない、と思われます。

まあ家族経営の会社が、きちんと取締役会をやっているとは考えにくいですが…

 

でも、そもそも家族会議(?)レベルの話だったら、税務調査で分からないんじゃないの?と思われるかもしれません。

議事録みたいに記録を取ることも通常はやらないでしょうし。

自分たちに有利な発言をすることも考えられます。

しかし、税務調査では、反面調査もできますので、外部の人からの意見も当然参考にします。

もし、調査官が正式に外部へヒアリングして、発言が事実と異なるようであれば大変なことになります。

重い罰則も受けてしまう可能性があるので、絶対にやってはいけません。

みなし役員リスクへの対策

具体例でお分かりのように、やはり子には一切経営にタッチさせないことがみなし役員対策には重要です。

部分的な権限移譲でもダメということですね。

株式を毎年贈与していて気が付くと5%を超えていた、というのも計画性がありません。

 

それでもやるなら、次のどちらかでしょう。

①株式を渡すなら、経営には全くタッチさせない…従業員と同じように働いてもらう

②経営に関与してもらうが、株式の保有割合は5%以下(※)にする

配偶者の場合は、夫婦一体でカウントするので、たとえ自分が保有してなくてもダメです。

 

もし、自分の会社で子に働いてもらうことを検討されているなら、是非仕事面だけでなく、待遇面や立場等を総合的に勘案した上で、遂行していただければと思います。

 

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