AIにより士業は厳しくなっていくのか
目次
記帳代行業務がなくなる可能性がある
新聞やテレビ等のいたる所で話題になっている「AI(人工知能)」について、今後士業はどうなっていくのか考えてみたいと思います。
私自身は税理士ですので、税理士としての視点で書きます。
税理士の独占業務は「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」です。
したがいまして、顧客である法人や個人事業主の申告書を作成することができます。
独占業務から派生される業務はいろいろありますが、中でも今後AIの発達により、限りなく少なくなっていくと言われているのが、領収証等の入力という記帳代行業務です。
思えば、記帳代行は会計事務所に初めて入所した際にやった業務でした。
当時、山盛りになっている領収証の束を一枚ずつ会計ソフトに入力していく地味な作業でした。
その時は新入社員だったのでなんでもやります、という気持ちでしたが、今ではとてもそんな気持ちにはなれません。
なぜなら、これから記帳代行業務はなくなっていく可能性が非常に高いからです。
今事務所で使っている「freee」というクラウド会計はとても利便性が高いです。
携帯のカメラで領収証を写真で撮影すれば、アップロードされて自動的に日付や金額等を読み取ってくれ、仕訳にまで起こしてくれます。
最初使ったときは感動しました。
それと同時に記帳代行業務はこの先なくなってしまうだろうなあ、と感じたのも事実です。
現時点での読み取り精度はそれほど高くないため、入力し直さないといけませんが、今後非常に速いスピードで精度が高まることは間違いないでしょう。
AIによるこうした「脅威」を感じている税理士はおそらく私一人だけではないはずです。
記帳代行業務のみでお客様から高い報酬を支払ってもらうことは、この先厳しいでしょう。
AIは膨大な資料やデータを読み込み、分析するのが得意です。
しかも、人間のように間違うことはありません。
さらにどれだけ長時間働いても疲れることはもちろんないため、人間に取って代わることになります。
おそらく単価も低くなっていくので、記帳代行業務で利益を出すことは難しいです。
本日(H29.3.15)の日経朝刊にも「AI襲来 眠れぬサムライ」と見出しが出ています。
今こそ、税理士としての新たな価値を見直さなければならない時です。
時代が変わっても変わらないもの
そうすると、当然お客様のために税理士として何ができるのか、考えなければなりません。
まずはお客様が求めているもの、悩んでいることに対してきちんとフォローすることです。
前述したように、AIに取って代わられる業務は次第になくなってしまいます。
しかし、ある意味では、今までの記帳代行による作業から開放されるので、割いていた時間や人的リソースを別業務へ切り替えたり、振替えたりすることが可能になります。
空いた時間でお客様へのフォローを行い、今までより価値の高いものを提供できる可能性が高まります。
そうすれば、お客様のニーズも満たせますし、満足度も高まるので安心していただけるのではないでしょうか。
これこそ、時代が変わっても変わらないもの=「お客様本位」に即した業務を提供できるようになります。
私はこうした会計事務所を目指したいと考えています。
AIとうまく付き合っていく
お客様本位に考えることはいつの時代も変わりません。
私が会計事務所に勤務し始めた頃の話ですが、あるセミナーに事務所の方たちと行かせてもらったことがあります。
セミナーのパネラーの人たちは、税理士業界で現在も活躍されている、そうそうたる方ばかりでした。
その中のお一人が、今後の税理士業界について発言されたことを思い出しました。
「税理士はこれから大変な時代が到来するとよく言われているけれども、そんなことは僕らが若い時にも言われていたよ、まあいつの時代でも言われることだけどね」と。
その方は超有名な税理士法人の代表の方です。
今から7~8年くらい前なので、クラウド会計などもまだ世に出ていない時期だったと思います。
やはりいつの時代でも求められていることは同じなんだな、とその時思いました。
これからどんどん時代の流れも速くなり、便利になっていきます。
2~3年後もどうなるかわからないので、ましてや10年以上先のことなどは分かるはずもありません。
ますます便利になっていく反面、AIが士業等の従来の業務を奪ってしまう危険性もあります。
ただ、時代から取り残されることだけは避けなければなりません。
私はこういったものとうまく付き合っていくしかないと感じます。
いつの時代でも、人間同士のコミュニケーションは人間にしかできないことです。
いくらコンピュータが発達したとしても、AIに本気で経営相談などはできないでしょう。
社長とお酒を飲みながら、腹を割ってというのは漫画の世界のことだけだろうと思います。
どれだけ取って代わられたとしても、こうしたコンピュータには「できない業務」は確実に残ります。
その部分で我々はより価値の高いアドバイスを提供できるかが、今後生き残れるかの分かれ目ではないかと考えています。